koshiromのメモ

ニュースを見て考えたことのメモ

主権者教育が進まない要因

以前の記事で、日本の主権者教育は高い目標を掲げていたこと、にもかかわらずその目標はまったく達成されていないことを書いた。

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主権者教育が進まない要因は66年前に成立した教育二法にあった

その後、様々な文献を調べているうちに、日本の主権者教育が進まない要因の一つとして、「政治的中立性」の問題があることがわかってきた。教育関連の法律で政治的中立性に関わる主な条文は次の3つだ。

 

1.教育基本法第14条第2項
学校は特定の政党を支持または反対するための政治教育や、その他の政治的活動を行ってはならないとするもの。 

2.教育公務員特例法第18条
教育公務員の政治的行為の制限を、国家公務員と同等に厳しくすることとしたもの。

3.義務教育諸学校における教育の政治的中立の確保に関する臨時措置法第3条
義務教育学校の教職員に対し、特定の政党を支持または反対させる等の教育の教唆及び扇動を行ってはならないとしたもの。

 

2と3は「教育二法」と呼ばれ、1954年に激しい反対運動にもかかわらず成立した経緯がある。当時衆参の文部委員会で実施された公聴会では、多くの有識者が反対の立場から意見を述べている。中でも印象的だった読売新聞社編集局教育部長(当時)の金久保通雄氏、東京大学教授(当時)の海後宗臣氏、東京大学教授(当時)の鵜飼信成氏の意見を引用する。

 

読売新聞社編集局教育部長(当時)の金久保通雄氏

これからの子供は自由な、独立的な、しかも自主的判断を持つた子供をつくらなければいけない。そういう子供をつくる教師が、かりに政治活動を極端に制限され、あるいは自由にものを言えないというような不自由な人間になつてしまつたら、どうしてそういう自由な独立心のある子供を教育することができるか。

第19回国会 衆議院 文部委員会公聴会 第1号 昭和29年3月13日 | テキスト表示 | 国会会議録検索システム シンプル表示

 

東京大学教授(当時)の海後宗臣氏

政治活動が甚だしく制限を受けますというと、教員が政治についての正しい理解が持てなくなつて来ます。そうしますというと政治に関してどのような教育を子供に与えたらいいかということもだんだん明らかでなくなつて来ます。一市民としての政治的な感覚を持たない教員には到底子供の政治教育は託することはできません。従つて私は義務教育の内におけるところの教員を政治的に力のないものに去勢してしまうという結果になつて来る。第二の法案については今後の正しい政治教育のためにこういうものは成立してはいけないと思うのです。(中略)町に出た一市民としての教員の政治活動が甚だしく拘束されて来るというようなことが起りますならば、これは政治的な考え方が教員にできなくなりますから、そういう教員に子供を頼んでおきましたならば、子供の政治的感覚はできなくなりますから、それでは将来の政治は暗黒になりますから、これは容易ならんことだと思います。

 第19回国会 参議院 文部委員会 第27号 昭和29年4月23日 | テキスト表示 | 国会会議録検索システム シンプル表示

 

東京大学教授(当時)の鵜飼信成氏 

政治から離れるということによつて、教育の政治的中立性が得られるかのように見える、又たとえ立法する場合には、そういうことが意図されておらないとしても、現実にはこういう法律が成立することによつて、教育者が政治問題に触れることを恐れて、結局教育の中に正しい政治的判断をする力が養われないような、そういう無気力な教育になつてしまう虞れがある。そういう意味でこの法案については考えるべき点があるように思います。

第19回国会 参議院 文部委員会 第27号 昭和29年4月23日 | テキスト表示 | 国会会議録検索システム シンプル表示

 

海後氏は「将来の政治は暗黒になる」とまで言っているが、実際現在の政治の状況を見ると、残念ながら有識者たちの危惧は現実のものとなってしまっている。

現在の主権者教育では「政治的中立性」への過度の配慮が制約になり、基本的な知識を一方的にレクチャーする知識吸収型の教育に終始してきたとの指摘が多くの有識者からなされているが、その大きな要因の一つは66年も前に成立した教育二法にあると言うことができるだろう。

 特集「教育の政治的中立性」を考える - 明るい選挙推進協会

 

「政治的中立性」の名のもとの牽制や威圧

「政治的中立性」は、近年も時折メディアで話題に挙がっている。最近特に大きな話題となったのは、選挙権年齢が「18歳以上」に引き下げられたときだ。

日本では2015年の公職選挙法改正により選挙権年齢が「18歳以上」に引き下げられ、「主権者教育」を求める声が高まった。これを受け、文部科学省総務省では政治学習用の副教材「私たちが拓く日本の未来」を作成している。

総務省|高校生向け副教材「私たちが拓く日本の未来」

この副教材は、触れられていない点や足りない点などへの批判や課題はあるものの、これまで避けられてきた「現実の具体的な政治的事象」を授業で取り扱うこととしている点においてはこれまでより一歩進んだ内容となっていた。

一方で、教師用の資料「指導上の政治的中立の確保等に関する留意点」では、「政治的中立性」に関わる様々な法律や趣旨、用語解説、FAQに加え、罰則まで細かく記載しており、「政治的中立性」を確保することがことさら強調されている。

指導上の政治的中立の確保等に関する留意点

 

選挙権年齢引き下げ後初の参院選が行われる直前の2016年7月には、自民党がWebサイトで「学校教育における政治的中立を逸脱するような不適切な事例」を具体的(いつ、どこで、だれが、何を、どのように)に記入するよう呼びかける「学校教育における政治的中立性についての実態調査」を実施し、「密告フォーム」と揶揄されて大きな話題となった。この呼びかけ文は批判を受けて一部文言の修正や削除が行われたが、ここでは当初の呼びかけ文を引用する。

党文部科学部会では学校教育における政治的中立性の徹底的な確保等を求める提言を取りまとめ、不偏不党の教育を求めているところですが、教育現場の中には「教育の政治的中立はありえない」、あるいは「子供たちを戦場に送るな」と主張し中立性を逸脱した教育を行う先生方がいることも事実です。
学校現場における主権者教育が重要な意味を持つ中、偏向した教育が行われることで、生徒の多面的多角的な視点を失わせてしまう恐れがあり、高校等で行われる模擬投票等で意図的に政治色の強い偏向教育を行うことで、特定のイデオロギーに染まった結論が導き出されることをわが党は危惧しております。

これを読むと、自民党の文部科学部会では「子供たちを戦場に送るな」という主張は中立性を逸脱する「偏向教育」と判断されていたことがわかる。

教員全体に「政治的中立性」を押しつける政権与党 - 渡辺輝人|論座 - 朝日新聞社の言論サイト

18歳選挙権時代における「政治的中立性」の扱い - 林大介|論座 - 朝日新聞社の言論サイト

さらに、自民党はこの過ちを認めないことで、今後も「子供たちを戦場に送るな」といった主張は「不適切な事例」と判断することを示唆している。こうした圧力は、教員を萎縮させて学校における主権者教育の実施を著しく阻害するだけでなく、教員以外の多くの公務員にも悪影響を与える。市民団体の主催する平和や憲法などに関するイベントで自治体からの後援が得られなくなったり、会場を借りられなくなったり、といったケースが全国で増えているのも無関係ではないだろう。

福岡市の後援撤回問題 「戦争展」政治的ですか? 市側「中立保てない」 団体「平和守る立場」|【西日本新聞ニュース】

<くらしデモクラシー>日中戦争写真展、後援せず 文京区教委「いろいろ見解ある」:東京新聞 TOKYO Web

 

これらの事例からわかるのは、昔も今も日本の保守政党では政治教育や平和主義を忌み嫌う議員が大きな影響力を持っているということ。そして「政治的中立性」という名のもとに教員を牽制・威圧し、萎縮させることで主権者教育を阻害し続けているということだ。

では、こうした状況下で主権者教育を進めるにはどうすればよいのだろうか?次回以降、具体的な事例を基に考えてみたい。

 

参考:新藤宗幸「「主権者教育」を問う」

投票率を上げる方法

前の記事で日本の主権者教育が素晴らしい目標を持って行われていること、それなのに現状はその目標がまったく達成できていないことを書いた。

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今回は、主権者教育の欠如によって起きている問題の一つである「投票率の低さ」にフォーカスを当て、改善策を考えてみたい。 

 

選挙に行かない理由

まずは、投票率が低い具体的な要因を探るために、選挙に行かない人たちにその理由を聞いているいくつかの調査の結果を見てみる。

CCCマーケティングが2020年7月5日の東京都知事選挙前に、高校生から89才までの3,119人を対象にネットで行った「選挙」に関する調査では、「あなたが、「投票へ行かない」と答えた理由を、すべて教えてください」という問に対する答えのTOP5は下記の通りだった。

 

 10~20代が選挙へ行かない理由

1.自分が投票してもしなくても世の中は変わらないと思うから:35.2%
2.政治や選挙にあまり関心がないから:33.3%
3.どの政党や候補者に投票していいか分からないから:30.8%
4.投票場に行くのが面倒だから:29.6%
5.他のことで忙しく投票に行く時間がないと思うから:28.9%

 

30代以上が選挙へ行かない理由

1.自分が投票してもしなくても世の中は変わらないと思うから:42.9%
2.投票場に行くのが面倒だから:26.3%
3.政治や選挙にあまり関心がないから:25.0%
4.どの政党や候補者に投票していいか分からないから:22.9%
5.自分が関係する政策が少ないと思うから:13.8%
5.他のことで忙しく投票に行く時間がないと思うから:13.8%

中高生世代と政治・社会をつなぐソーシャルプロジェクト「学校総選挙」 「選挙」に関するアンケート調査を実施

 

明るい選挙推進協会が第25回参議院選挙後に18歳から24歳の2,000人を対象にネットで行った調査では、「投票に行かなかったのは、なぜですか。次の中からあなたの考えに近いものをいくつでも選んでください」という問に対する答えのTOP5は下記の通り。

 

1.面倒だったから:29.8%
2.選挙にあまり関心がなかったから:28.5%
3.どの政党や候補者に投票すべきかわからなかったから:18.9%
4.今住んでいる市区町村で、投票することができなかったから:15.9%
5.私一人が投票してもしなくても世の中は変わらないと思ったから:15.3%

第25回参議院議員通常選挙における若年層の意識調査

 

日本リサーチセンターで2019年7月の参議院選挙について18歳から69歳の1,180人を対象にネットで行った調査では、「投票に行かなかった理由をお知らせください」という問に対する答えのTOP5は下記の通りだ。

  

1.投票したいと思う候補者も政党もなかったから:22.3%
2.用事(仕事を除く)や急用ができたから:18.6%
3.選挙に関心がなかったから:17.0%
4.投票所に行くのが面倒だったから:14.6%
4.どの候補者・どの政党に入れればよいか、よくわからなかったから:14.6%

2019年7月参議院選挙に関するWEB調査

 

これらの調査結果から主な理由をまとめると、下記の5つに集約できる。

  1. 関心がない
  2. 面倒
  3. 投票しても世の中は変わらない
  4. 投票先が分からない
  5. 投票したい先がない

 

民間でできる改善策

これらに対する長期的な改善策として、主権者教育によって「国民主権を担う公民としての責任感」や「政治へのリテラシー」を身につけることが重要なのは言うまでもない。

だけど、短中期的な対策としては、民間でも改善に寄与できる改善策があるのではないだろうか。ここで上記1~4それぞれの理由に対する改善策を考えてみたい。

 

1.「関心がない」人の関心を喚起する

「関心がない」という人にも、「まったくない」人から「あまりない」人まで、いろいろな人がいる。そして、たとえ政治に「関心がない」人でも、政治に「関係がない」人はいない。なぜなら、国民は主権者であり納税者でもあるからだ。

誰もが消費税を払っているだろうし、所得がある人は所得税や住民税など、車に乗る人は自動車税自動車重量税など、持ち家の人は固定資産税、お酒を飲む人は酒税、たばこを吸う人はたばこ税、、というようにあまり意識していなかったとしても市民は様々な税金を払っている。そして日本の政治も行政も、それらの税金を使って行われている。

政治に「まったく関心がない」人の関心を喚起するのはなかなか難しいが、「あまり関心がない」人であれば、自分に関係がある(自覚していなかったとしても)トピックについて、気付きを促したり、正しい認識や理解の助けとなる情報を、テレビ番組や選挙公報のようなプッシュ型メディア(情報の送り手が能動的に情報を押し出し、受け手は受動的に情報を受け取るタイプのメディア)で伝えることで、一定の関心を喚起できる可能性は十分あるだろう。

 

2.「面倒」という人の障壁を取り除く

「面倒」という人は、大きく二つのタイプに分けられる。投票するために必要な情報収集が面倒な人と、投票所に行くことさえ面倒な人だ。

情報収集が面倒なケースでは、テレビ番組や選挙公報、大手ポータルサイトのディスプレイ広告のようなプッシュ型メディアで、ボートマッチのような候補者や政党との考え方の一致度を測ることができるコンテンツを提供して情報収集を支援することで、投票を後押しできる可能性がある。

最近は公約を平然と反故にする政治家もいるため、これまでの活動や言動なども確認しなければ、自分にとって正しい候補者や政党を選ぶのが難しくなっており、メディアが調査・検証した情報を提供することは、多くの人にとって助けとなるだろう。

投票所に行くことさえ面倒なケースでは、駅やショッピングセンター、大学などに投票所を設置する取り組みが有効だ。別の用事のついでに投票ができるようになるため、こうした取り組みを広げることで投票率の底上げが期待できる。

第25回参議院議員通常選挙にあたり、全国103のイオンの商業施設に「投票所」が設置されます | イオン株式会社

 

3.「投票しても世の中は変わらない」という人に社会を変える成功体験を

「自分たちが主体となって政治に影響を与えることができると感じられる意識や感覚」のことを「政治的有効性感覚(political efficacy)」という。「投票しても世の中は変わらない」という人の多くは、この感覚が低い人たちということができるだろう。

以前の記事で紹介した各国の若者を対象とした調査でも、「私の参加により、変えてほしい社会現象が少し変えられるかもしれない」と考える人の割合は日本がダントツで低く、選挙に行かない理由として「投票しても世の中は変わらない」という回答が多かった前述の調査結果と符合する。

では、「投票しても世の中は変わらない」という人たちの政治的有効性感覚を高めるにはどうすればよいのだろうか?

この感覚を高めるために重要なのは、「自主的に考え、行動したことで、何かを変えられた」という経験を積むことだと言われている。これはメディアで関心を喚起したり、情報や機会を提供したりするのと異なり、1回の選挙の期間内でできることではない。

それでも、できることはある。例えば「市民が社会の問題に対して行動して改善できた事例を集めて共有する」ことだ。

日本には投票やデモといった市民が政治に影響を与える行為を過小評価したり、無意味だと主張する人がいる。それに影響されて無意味だと思っている人も一定数いる。そのような人たちに「市民が社会の問題に対して行動して改善できた事例」を知ってもらうことで、「無意味」との主張を打ち消すことができるだろう。

さらには、そうした市民の行動を支援したり、自ら声を上げたりすることで、よい事例を増やすこともできるかもしれない。

18・19歳の新有権者はどんな政治意識を持っているか ~教育的な効果が高い模擬投票 - みらいぶプラス/河合塾

主権者教育の充実で、あるべき民主主義の実現を 健全な社会を次世代に手渡すために

日本人の政治的疎外意識 政治的有効性感覚のコーホート分析

 

4.「投票先が分からない」「投票したい先がない」人に有益な情報を伝える

「投票先が分からない」「投票したい先がない」という人は、「関心がない」という人と同様、自分に関係があるトピックについて、気付きを促したり、正しい認識や理解の後押しとなる情報を伝えたり、「投票するために必要な情報収集が面倒な人」と同様、ボートマッチのような候補者や政党との考え方の一致度を測ることができるコンテンツを提供して情報収集を支援することで、投票を後押しできる可能性があるだろう。

  

このように、テレビは日本の投票率の向上に大きな役割を果たすことができる可能性がある。

一方で、公共の電波を利用するテレビには極めて高い公共性が求められており、放送法では次のように定められている。

放送に携わる者の職責を明らかにすることによつて、放送が健全な民主主義の発達に資するようにすること。 

とはいえ、今の日本のメディアにこうした使命を果たすことを求めるのは求めすぎだろうか。。ぜひテレビで働いている人に「馬鹿にするな!」と反論してほしいところだ。

よりよい放送のために | 一般社団法人 日本民間放送連盟

日本の主権者教育の理想と現実

前回の記事で、日本人の政治への関心が低い理由の一つとして「シティズンシップ教育」、日本でいう「主権者教育」が遅れていることを挙げた。

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この記事を書くために日本での取り組みも調べたところ、日本の教育課程の基準として文部科学省が告示している「学習指導要領」には、主権者教育で重要な要素が多分に含まれていることがわかった。

 

小学校の学習指導要領解説

社会生活についての理解を図り,我が国の国土と歴史に対する理解と愛情を育て,国際社会に生きる平和で民主的な国家・社会の形成者として必要な公民的資質の基礎を養う。

「国際社会に生きる平和で民主的な国家・社会の形成者として必要な公民的資質の基礎を養う」とは,小学校及び中学校の社会科の共通のねらいであり,小学校及び中学校における社会科の指導を通して,その実現を目指す究極的なねらいを示している。

小学校学習指導要領解説によると、小・中学校の社会科は上記のように「公民的資質の基礎を養う」ことを目標としている。「公民的資質」とは何か?同解説には次のように書かれている。 

公民的資質は,平和で民主的な国家・社会の形成者としての自覚をもち,自他の人格を互いに尊重し合うこと,社会的義務や責任を果たそうとすること,社会生活の様々な場面で多面的に考えたり,公正に判断したりすることなどの態度や能力であると考えられる。

小学校学習指導要領解説 社会編(2008)

 

上記の学習指導要領解説は2008年版だが、この定義は現在も引き継がれており、2017年の学習指導要領解説には下記のように記載されている。

なお,これまで「小学校学習指導要領解説 社会編」等で「公民的資質」として説明してきた,「平和で民主的な国家・社会の形成者としての自覚,(中略)公正に判断したりすること」などの態度や能力は,今後も公民としての資質・能力に引き継がれるものである。

小学校学習指導要領解説 社会編(2017)

 

中学校の学習指導要領

中学校も調べてみた。中学校学習指導要領には、社会科の目標が次のように書かれている。

社会的な見方・考え方を働かせ,課題を追究したり解決したりする活動を通して,広い視野に立ち,グローバル化する国際社会に主体的に生きる平和で民主的な国家及び社会の形成者に必要な公民としての資質・能力の基礎を次のとおり育成することを目指す。

  1. 我が国の国土と歴史,現代の政治,経済,国際関係等に関して理解するとともに,調査や諸資料から様々な情報を効果的に調べまとめる技能を身に付けるようにする。
  2. 社会的事象の意味や意義,特色や相互の関連を多面的・多角的に考察したり,社会に見られる課題の解決に向けて選択・判断したりする力,思考・判断したことを説明したり,それらを基に議論したりする力を養う。
  3. 社会的事象について,よりよい社会の実現を視野に課題を主体的に解決しようとする態度を養うとともに,多面的・多角的な考察や深い理解を通して涵かん養される我が国の国土や歴史に対する愛情,国民主権を担う公民として,自国を愛し,その平和と繁栄を図ることや,他国や他国の文化を尊重することの大切さについての自覚などを深める。

中学校学習指導要領

 

中学校の社会科には地理的分野、歴史的分野、公民的分野があり、公民的分野の項目では、より具体的に踏み込んだ記載がされている。

  1. 個人の尊厳と人権の尊重の意義,特に自由・権利と責任・義務との関係を広い視野から正しく認識し,民主主義,民主政治の意義,国民の生活の向上と経済活動との関わり,現代の社会生活及び国際関係などについて,個人と社会との関わりを中心に理解を深めるとともに,諸資料から現代の社会的事象に関する情報を効果的に調べまとめる技能を身に付けるようにする。
  2. 社会的事象の意味や意義,特色や相互の関連を現代の社会生活と関連付けて多面的・多角的に考察したり,現代社会に見られる課題について公正に判断したりする力,思考・判断したことを説明したり,それらを基に議論したりする力を養う。
  3. 現代の社会的事象について,現代社会に見られる課題の解決を視野に主体的に社会に関わろうとする態度を養うとともに,多面的・多角的な考察や深い理解を通して涵かん養される,国民主権を担う公民として,自国を愛し,その平和と繁栄を図ることや,各国が相互に主権を尊重し,各国民が協力し合うことの大切さについての自覚などを深める。

 

日本の小中学校における社会科の目標

行政文書独特の読みにくさがあるため、義務教育における社会科の目標を独自に分類して簡潔にまとめてみた。

 

【公民的資質の定義】

  • 平和で民主的な国家・社会の形成者としての自覚をもつ
  • 自他の人格を互いに尊重し合う
  • 社会的義務や責任を果たそうとする
  • 社会生活の様々な場面で多面的に考えたり、公正に判断したりする

 

【知識】

  • 日本の国土と歴史、政治、経済、国際関係等に関する理解
  • 個人の尊厳と人権の尊重の意義についての正しい認識
  • 民主主義、民主政治の意義、国民の生活の向上と経済活動との関わり、社会生活及び国際関係についての理解

 

 【技能・思考力・判断力・表現力】

  • 調査や諸資料から様々な情報を効果的に調べまとめる技能
  • 社会の課題の解決に向けて選択・判断する力
  • 思考・判断したことを説明したり、それらを基に議論したりする力
  • 社会的事象の意味や意義、特色や相互の関連を多面的・多角的に考察する力

 

 【態度】

  • よりよい社会の実現を視野に課題を主体的に解決しようとする態度
  • 多面的・多角的な考察や深い理解を通してかん養される国土や歴史に対する愛情
  • 国民主権を担う公民として、自国を愛し、平和と繁栄を図ることの大切さの自覚
  • 他国や他国の文化を尊重することの大切さの自覚

 

目標と現状の大きなギャップ

日本の義務教育でこれほど立派な目標を持って学習指導が行われていたとは。。前回の記事で取り上げた内閣府の調査結果を見るまでもなく、近年の日本社会における人権や政治、民主主義などに関わる様々な問題や、それらに対する市民の反応を知っている人なら、その「現状」とこの「目標」とのギャップに驚くのではないだろうか。

実際、学習指導要領の改訂の方向性について議論を行う文部科学省  中央教育審議会 教育課程企画特別部会が2015年8月にまとめた「論点整理」でも、かなり控えめではあるものの、下記のように現状に課題があることを指摘している。

我が国の子供たちについては、判断の根拠や理由を示しながら自分の考えを述べたり、実験結果を分析して解釈・考察し説明したりすることなどについて課題が指摘されることや、自己肯定感や主体的に学習に取り組む態度、社会参画の意識等が国際的に見て相対的に低いことなど、子供が自らの力を育み、自ら能力を引き出し、主体的に判断し行動するまでには必ずしも十分に達しているとは言えない状況にある。

教育課程企画特別部会 論点整理

 

しかし、現状は「必ずしも十分に達しているとは言えない」という表現では足りず、むしろ「達していない」と言い切ってもよいぐらいだろう。

確認のために、やはり前回の記事で取り上げた政治への関心や意欲にかかわる質問の結果を改めて見ておきたい。

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これらの質問について日本は7か国の中で最下位であるだけでなく、どれも6位から10ポイント以上の大きな差がついている。要するにダントツのビリだ。 

さらに国政選挙の年代別投票率を見てみると、10代と20代は特に投票率が低い。前述の調査で政治に「関心がある」と答えた割合よりさらに低い状況だ。

衆院選の年代別投票率

参院選の年代別投票率

総務省|国政選挙の年代別投票率の推移について

 

前述の小学校学習指導要領は2011年から、中学校は2012年から全面実施されている。なので、「公民的資質」の基礎を養うための教育を受けてきた世代は、当時小3のおよそ半数と小4以上の全員が、現在は選挙権を得ていることになる。その世代が国政選挙で投票する機会は、当時の小4、小5は1回、小6は2回、中学生は3回、これまでにあったはずだが、2016年以降の10代、20代の投票率は上がっていないばかりか、むしろ下がっている。

なぜこのような高い目標が掲げられているにもかかわらず、まったく達成できていないのか?前述の中央教育審議会の論点整理では「学校の教育課程や各教科等の授業への理念の浸透や具体化が十分ではなかった」ことを原因の一つとして挙げているが、いまいちわかりづらいというか、腹に落ちない。。

次回以降、中央教育審議会では目標が達成できていない理由をどのように考え、その改善のためにどのような対策を講じているのか、引き続き調べていきたい。

  

参考:やさしい主権者教育 18歳選挙権へのパスポート

日本人の政治への関心が低い二つの理由

日本人は政治への関心が低い。内閣府が実施した、各国の13 ~29 歳を対象とした意識調査では、政治に「関心がある」(「非常に関心がある」と「どちらかといえば関心がある」の合計)と答えた割合は43.5%だった。7か国比較で見ると「関心がある」と答えた割合がもっとも高いのはドイツ(70.6%)で、以下はアメリカ(64.9%)、イギリス(58.9%)、フランス(57.5%)、スウェーデン(57.1%)、韓国(53.9%)、日本(43.5%)と、日本は7か国でもっとも低い。

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また、「社会をよりよくするため、私は社会における問題の解決に関与したい」という考えに「そう思う」(「そう思う」と「どちらかといえばそう思う」の合計)と答えた割合がもっとも高いのもドイツ(75.5%)で、以下はアメリカ(72.6%)、韓国(68.4%)、イギリス(63.7%)、フランス(56.9%)、スウェーデン(56.9%)、日本(42.3%)という結果。

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さらに、「私の参加により、変えてほしい社会現象が少し変えられるかもしれない」という考えに「そう思う」(「そう思う」と「どちらかといえばそう思う」の合計)と答えた割合がもっとも高いのはアメリカ(63.1%)で、以下はイギリス(54.9%)、ドイツ(51.1%)、フランス(50.6%)、韓国(47.3%)、スウェーデン(46.9%)、日本(32.5%)という結果。

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我が国と諸外国の若者の意識に関する調査 (平成30年度) - 内閣府

 

政治への関心や意欲にかかわる質問のすべてで日本は7か国でもっとも低い結果だ。

 

諸外国と日本のシティズンシップ教育

日本の若者の政治への関心や意欲が低い大きな理由の一つに、「シティズンシップ教育」の遅れが挙げられる。

「シティズンシップ教育」とは何か?総務省が2011年12月に発表した「常時啓発事業のあり方等研究会」最終報告書では下記のようにまとめられている。

欧米においては、コミュニティ機能の低下、政治的無関心の増加、投票率の低下、若者の問題行動の増加等、我が国と同様の問題を背景に1990年代から、シティズンシップ教育が注目されるようになった。それは、社会の構成員としての市民が備えるべき市民性を育成するために行われる教育であり、集団への所属意識、権利の享受や責任・義務の履行、公的な事柄への関心や関与などを開発し、社会参加に必要な知識、技能、価値観を習得させる教育である。その中心をなすのは、市民と政治との関わりであり、本研究会は、それを「主権者教育」と呼ぶことにする。

https://www.soumu.go.jp/main_content/000141752.pdf

  

では、早くからシティズンシップ教育に注目してきた欧米、特に前述の調査で政治への関心や意欲が高かったドイツ、アメリカ、イギリスではどのように取り組んできたのか。3か国の取り組みを簡単にまとめてみた。

 

ドイツ

1976年、今日の政治教育の基本原則となる「ボイテルスバッハ合意」が発表された。

①「教員による見解の強制の禁止」:教員が期待される見解を生徒に強制し、生徒が自らの判断の獲得を妨げることがあってはならない。
②「論争のある問題は論争のあるものとして扱う」:学術や政治において議論のあることは、授業においても議論のあるものとして扱わなければならない。
③「個々の生徒の利害関心の重視」:生徒は、政治的状況と自らの利害関係を分析し、自らの利害関心に基づいて所与の政治的状況に影響を与える手段と方法を追求できるようにならなければならない。

2003年、政治教育の標準となる「学校における政治教育の国家的スタンダード」が策定された。同スタンダードでは、政治的判断力(政治を多面的かつ中長期的視点から理解する能力)と行動力(現状把握、自己の利害等を踏まえ倫理的かつ有効に意見表明する能力)等を生徒に獲得させることを課題としている。

また、ドイツ連邦議会選挙、州議会選挙、ヨーロッパ選挙に合わせて中高生を中心に模擬投票を実施。2019年のヨーロッパ議会選挙の際は2,760校が参加している。

 

アメリ

1994 年に制定された「アメリカ教育法」では、連邦が各州に対し教育の基準となるスタンダードの策定を促した。同法で掲げた2000年までに達成すべき「全国共通教育目標」全8項目のうち、次の2項目がシティズンシップ教育に関する内容となっている。

 ・全生徒が責任ある市民としての役割を果たすことを可能にするための学校教育の保証

・市民としての権利及び義務の担い手となるために必要な知識及び技能の習得

これを受けて、同年に主に民主主義を教える「公民科」のナショナルスタンダードが策定された。これは、政治に関する学習を中心とした「内容」のほかに、説明・分析や、政治に対する監視等の「技能」、個人の価値や人としての尊厳を尊ぶことなどが挙げられる「資質」のカテゴリーで編成されている。

また、大統領選挙の前には大規模な模擬選挙が全米規模で実施され、幼稚園児から高校生まで、多くの子供たちが参加するという。

 

イギリス

1997年、「シティズンシップ諮問委員会」を設置。同委員会は1998年にシティズンシップ教育を必修化することを提言した。これを受け、小学校では2000年から既存の教科の追加要素として、中学校では2002年から必修課目としてシティズンシップ教育が導入された。 この教科では、社会に対する責任感や参加意識、政治的な判断力を育てることを目的としており、時事問題、社会的論争についての知識だけでなく、意見の対立を解決する方法も学ぶ。選挙や投票に関しては、仕組みや事実関係の学習だけではなく、討論等を通じた探究や、模擬投票のような体験型の学習を重視している。

学校外では、英国議会の事務局が実施し、議員も参加する模擬議会のほか、事務局職員が各学校等で教員や生徒に講習やワークショップ等を行っている。また、「英国青少年議会」では、全国各地域から選出された青少年議員が、それぞれの地域の下院議員や地方議会の議員等とともに活動している。

 

国立国会図書館 主権者教育をめぐる状況

海外の主権者教育 明るい選挙推進協会

日本の主権者教育は、世界に40年以上遅れている!? | キャリア・教育 - Meiji.net(メイジネット)明治大学

 

日本の状況

一方日本では、2011 年に総務省の「常時啓発事業のあり方等研究会」が、欧州の「シティズンシップ教育」を基に「主権者教育」の展開を打ち出した。

2015年の公職選挙法改正による選挙権年齢の18歳への引き下げに向け、学校でも主権者教育が注目され、「明るい選挙推進協会」の「出前授業」を行う自治体数は増加した。

しかし、学校が行う主権者教育では「国民主権など民主主義の基本」「選挙区制など選挙の仕組み」「普通選挙実現の歴史」といった知識吸収型の学習にとどまり、「ディベートや話し合い」「模擬投票などの体験型学習」といった能動型の学習(アクティブ・ラーニング)は1割程度しか実施されていない状況だ。

幼稚園児や小学生のような小さな子どものうちから責任ある市民としてのふるまいを学び、能動型、体験型の学習を行う欧米の若者との関心・意欲の格差は、こうしたところから生まれているのだろう。

報告:主権者教育の理論と実践 日本学術会議

http://www.akaruisenkyo.or.jp/wp/wp-content/uploads/2010/07/18sai_bunseki.pdf

  

だが、日本人の政治への関心や意欲が低い理由はこれだけではない。もう一つの大きな理由として挙げられるのが、政治的な発言を攻撃する人が一定数いることだ。

特に有名人に対するネットでの誹謗中傷は顕著で、それによる精神的なダメージはもちろん、「一部のファンが離れるかもしれない」、「好感度が下がって契約しているスポンサーに迷惑をかけたり、降板させられるかもしれない」、「今後の仕事に支障が出るかもしれない」といった様々な懸念から、政治的な発言に後ろ向きな有名人が非常に多い。

しかし、「政治的な発言をする人への誹謗中傷」は、健全な民主主義を阻害する行為であり、本来許されるものではない。にもかかわらず、現在の日本ではTwitterのようなプラットフォームにおいても誹謗中傷やヘイト投稿が数多く放置されている。そうした状況が、有名人だけでなく多くの人を萎縮させているのは明らかだ。

日本では、前述の教育の問題で多くの人に政治的なリテラシーがない中、このような誹謗中傷が横行することで、政治の話を「避けるべきもの」とする空気が作り出されているのだろう。

なぜ多くの日本人は「芸能人の政治的発言」に眉をひそめるのか 「意見を言う」に否定的なニッポン | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)

日本で「有名人の政治的発言」が批判される理由―アメリカとの違いを解説【町山智浩×津田大介】(J-WAVE NEWS) - Yahoo!ニュース

 

だが、言うまでもなく国民には政治的な意見を表明する権利も、権力者を批判する権利もある。そればかりか、本来国民は主権者として為政者を監視し、おかしなことがあれば批判し、それを是正する責任がある。

多くの人がそうした国民の責任を果たせるよう、まずは政治の話を「避けるべきもの」とする空気を払拭し、誰もが気軽に政治の話をしやすい空気を作らなければならない。

「世界に変化を望むなら、自らがその変化になれ」というガンジーが言ったとか言わないとかいう名言があるが、日本人が場の空気に敏感であることを逆手に取り、「誰もが気軽に政治の話ができるようにしたい」と思う人みんなで、職場でも、駅や電車でも、美容院でも、友人・知人との集いの場でも、機会があるたびに、周囲の目を気にせず、いやむしろ周囲の目を気にしながら当たり前のようにさらっと政治の話をすることを続けていけば、「誰もが気軽に政治の話をしやすい空気」は作れるのではないだろうか。

そう思って、なるべくみんなに関係があるような話題の時事問題を選んで実践していたが、最近は対面でのコミュニケーションの機会が大幅に減ってしまった。機会がある方にはぜひやってみていただきたい。

未だに安倍政権の支持率がこれほどある理由

安倍内閣の支持率が過去最低の水準に下がっているらしい。

www.jiji.com

内閣支持37%、不支持は最高54%…読売世論調査 : 世論調査 : 選挙・世論調査 : 読売新聞オンライン

安倍内閣「支持する」34% 第2次政権発足以降 最低の水準に | 選挙 | NHKニュース

 

「謎の2割」は誰なのか?

このような内閣の支持率が公表される度に、twitterでは「これほど不祥事が多く民意を無視する政権が、なぜ未だにこれほど支持されているのか理解できない」という類の意見が多くリツイートされているのを見かける。大企業や富裕層や身内など安倍政権によって利益を得ている人や、安倍首相を妄信しているような人たちだけでこれほどの支持率になるのだろうか?という疑問だろう。

厚生労働省が行っている「2019年 国民生活基礎調査」で所得の分布状況を見ると、1,000万円以上の世帯を富裕層としても12.1%に過ぎないし、安倍首相を妄信している人はさらに少ないはずだ。仮にこれら全員が安倍政権の支持者だったと仮定しても15%程度にしかならない。

国民生活基礎調査|厚生労働省

ネトウヨ像覆す8万人調査 浮かぶオンライン排外主義者:朝日新聞デジタル

 

では、3割強の支持者のうち上記の15%程度を引いた残りの2割前後はいったい誰なのか?今回はこの「謎の2割」の人たちについて考察したい。

その前に、そもそも内閣支持率世論調査は正しいのか?という疑念を抱いている人もいると思う。確かに森友文書改ざんをはじめとした様々な問題が原因究明も再発防止もされていないのだから、政府や政府とつながりの強い組織が公表する数字が同じように改ざんされていてもおかしくはない。

しかし、今回は多少の不正があったとしても支持率を20ポイントも高く見せるほどの不正はされていないという前提で、より単純で根本的な仮説を検証してみたいと思う。それは、「謎の2割」の人たちは単に問題を「知らないだけ」なのではないか?という仮説だ。

 

ネットでニュースを見ない人の割合

まさか?と思うだろうか。普段ネットで当たり前のようにニュースを見ている人には、これほどネットやスマホが普及した世の中で、これほど報じられている安倍政権の問題を「知らない」人がいるなんて信じられないかもしれない。

しかし、テレビでは安倍政権による様々な問題に関する報道がネットと比べて少ないため、情報の摂取をテレビに依存している特定の層においては安倍政権の問題を知ることができずにいる人が相当数いる可能性はある。

実際はどうか?まずは普段ネットでニュースを見ていない人がどれくらいいるのか確認してみる。

総務省が情報通信サービスの利用状況等について調査した「平成30年通信利用動向調査」によると、ネット利用者に対して「過去1年間にインターネットで利用した機能・サービスと目的・用途」を聞いた問で「ニュースサイトの利用」と答えた人は20代~80代以上の平均で57.3%、これを人口比にすると50.8%となる。つまり、残りの半数近くの人は過去1年間で1回もニュースサイトを利用していないことになる。

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統計調査データ:通信利用動向調査:報告書及び統計表一覧(世帯編)

統計局ホームページ/人口推計/人口推計(2019年(令和元年)10月1日現在)‐全国:年齢(各歳),男女別人口 ・ 都道府県:年齢(5歳階級),男女別人口‐

 

テレビの利用度と信頼度

では、半数の人たちは世の中の出来事や動きに関する情報をどのメディアで得ているのか?総務省が行った「社会課題解決のための新たなICTサービス・技術への人々の意識に関する調査研究」の報告書によると、ニュースを見る際の手段は20代から60代までのすべての年代においてテレビが5割を超えてもっとも高い結果だった。しかもこの調査はオンライン調査であり、回答者は全員普段からネットを利用している人であるため、実際にはテレビはもっと高く、インターネットはもっと低いはずだ。

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https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/linkdata/h27_06_houkoku.pdf

 

また、同じく総務省の「平成30年度 情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」によると、「信頼できる情報を得る」ためにもっとも利用するメディアとしても、10代から60代までのすべての年代においてテレビが5割を超えてもっとも高い結果だ。

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総務省|情報通信政策研究所|情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査

 

もう一つ、テレビをNHKと民放に分けて聞いている調査結果も見てみる。公益財団法人の新聞通信調査会が2019年に行った「メディアに関する全国世論調査」によると、「各メディアの信頼度」がもっとも高かったのは「新聞」で68.9点、次いで「NHK テレビ」が68.5点、「民放テレビ」が62.9点だった。

さらに「各メディアの印象」を聞いた問で「情報が信頼できる」メディアとしてもっとも高かったのは「NHK テレビ」で58.2%、次いで「新聞」が53.7%、「民放 テレビ」が42.4%で、「インターネット」は14.8%だった。

世論調査 | 公益財団法人新聞通信調査会

 

これらの調査結果は、普段ネットでニュースを見ていない人の多くは代わりにテレビ、特にNHKから得た情報を基に世の中の出来事や動きを認識し、価値判断や意思決定を行っていることを示唆している。

 

NHKによる政権擁護とそれらに対する批判の数々

ここまでで合点がいった人もいるかもしれない。普段からネットでニュースを見ている人の多くにとっては、テレビ、特にNHKが安倍政権にとって都合が悪いニュースを報じなかったり、報じても政権に悪い印象を与えないよう編集をしたり、政権の主張を無批判に放送したりしていることは周知の事実だからだ。そうした問題を取り上げた記事やツイートは無数にあるが、一部を掲載する。

 

「NHKよ、なぜ安倍首相への帰れコールを隠すんだ」 海外メディアの記者が疑問視【沖縄・慰霊の日】 | ハフポスト

「なぜこのネタを出さないんですか!」森友問題“遺書”スクープ記者がNHKを見限った瞬間 | 文春オンライン

首相のサンゴ発言、NHK「自主的な編集判断で放送」:朝日新聞デジタル

 

  

こうしたテレビの印象操作により、安倍政権の問題を知ることができないばかりか、誤って認識している人が相当数いることは明らかだ。

つまり「謎の2割」は、テレビが「知る権利への奉仕」という使命をないがしろにしているせいで知る権利を享受できずにいる人たちであり、安倍政権はそうした「知らされていない人たち」の一部からの支持によって存続できている可能性が高い。以前の記事で書いた「市民に本当の姿を知られないことで権力を保持している小池知事と、都合が悪い情報を伝えないことでそれに加担するマスメディア」と同じ構図だろう。 

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 こうした現状を変えるにはどうすればよいのだろうか。。いずれまた書きたいと思う。

「投票」が最強の家計防衛術である理由(2)

前回は、選挙で「庶民の生活を守るためにお金を使う政党」に投票して政権を変えることは、簡単で効果が高い家計防衛術であるということ、そしてなぜ政権を変えることが生活防衛術になるのか?について書いた。 

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今回は、現在生活が苦しいと感じている人が「庶民の生活を守るためにお金を使う政党」に投票すれば、本当に政権を変えることができるのか?について書きたい。

 

節約意識の高い人が投票した場合の影響

検証のために、まずは最近の国政選挙で投票しなかった人のうち、節約意識が高い人がみんな投票した場合の影響を推定してみる。

 

投票しなかった人の数

「令和元年7月21日執行 参議院議員通常選挙 発表資料」によると、2019年7月21日の有権者数は「1億588万6,063人」。(①)

この選挙で投票した人の数は「5,167万1,922人」。(②)

つまり投票しなかった人の数は ①-②で「5,421万4,141人」となる。(③)

令和元年7月21日執行 参議院議員通常選挙 発表資料

 

「節約意識が高い未投票者」の数

日本に生活防衛術としての節約に取り組んでいる人がどの程度いるか?参考になりそうな節約意識についての調査結果をいくつか見る限りでは6割から9割と、かなりの幅がある。

ただし、こうした調査では回答者がポイント等の謝礼を目的にモニター登録をしているケースも多く、節約意識が高めに出る傾向がある。

そこで今回は、厚生労働省が行っている「2019年 国民生活基礎調査」に掲載されている、平均所得金額552万3,000円以下の世帯数の割合「61.1%」を「節約意識が高い人」とする。(④) 

2019年 国民生活基礎調査の概況

 

そして、③の投票しなかった人に④の割合をかけると「3,312万4,840人」となる。これはどの程度の数字なのか?わかりやすくするために、前掲の昨年の参院選の資料から与党(自民+公明)+維新と、野党(立憲+国民+共産+社民+れいわ)の得票数を拾って比べてみる。 

  比例代表 選挙区
与党(自民+公明)+維新 29,156,554 27,608,220
野党(立憲+国民+共産+社民+れいわ) 19,208,475 15,325,315

なんと、「節約意識が高い未投票者」の数は、昨年の参院選の与党の得票数よりさらに数百万人多い。さらにわかりやすくするためにグラフにしてみる。

 

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こうして見ると「3,312万4,840人」は非常に多い数であることがわかる。

ちなみに、もともと投票していた前述の②を足すと「8,479万6,762人」となり、投票率は「80.1%」にもなる。2009年に民主党が浮動票を取り込んで圧勝し、政権交代を成し遂げた際の投票率が約69.3%だったことを考えると、圧勝という表現では足りないくらいだろう。多くの節約意識の高い人たちがその気になれば、簡単に政権を変え、税金の使い道を変えさせることができるということだ。

 

投票が最強の家計防衛術である理由

最後に、蛇足ながら投票が最強の家計防衛術である理由を書く。

理由1

とにかく楽。節約のように日々我慢したり努力し続けなくても、普段と同じように生活し、たまにしかない選挙で近所の投票所に行って投票するだけなので、誰でも簡単にできる。面倒な手続きも要らないし、難しい知識も要らない。

理由2

リスクがない。エアコンを我慢して熱中症になるリスクもないし、育ち盛りの子どもの食費を切り詰めて栄養不良になるリスクもない。投資と異なり元本割れして損をしてしまうリスクもない。

理由3

自分の暮らしだけでなく世の中も良くなる。生活が苦しいと感じる人が減り、これまで切り詰めていた家計にゆとりが出てくれば、これまでできなかった様々なことができるようになる。例えば、外食が増えたり、旅行に行ったり、車を購入したり、結婚をしたり、子どもを作ったり。。

 

こんなすばらしい家計防衛術だが、その実現に欠かせない条件が二つある。一つは、多くの「節約意識が高い人」たちに、みんながその気になれば政権を変えることは簡単にできると知ってもらうこと。もう一つは、「節約意識が高い人」たちが、暮らしを良くしたいという望みを失っていないことだ。

日本人は諦めがよすぎると常日頃から感じているが、これだけは絶対に諦めないでほしい。自分たちは主権者であり、世の中は変えられるのだから。

「投票」が最強の家計防衛術である理由

先週、「政府が景気の後退局面に入ったことを認定する方向で検討している」という記事を取り上げた。 

goover.hateblo.jp

その後、正式に「2018年11月から景気後退局面に入っていた」と認定されたようだ。いくつかのメディアが淡々と伝えている。

www.tokyo-np.co.jp

様々な世論調査では軒並み「景気回復」を実感していない人が多い結果だったが、やはりその実感は正しかったのだろう。

実際、日本では1人当たりの実質賃金が低下しており、低所得者層も増えている。さらに新型コロナの影響で失業者も増え、生活が苦しいと感じる人は今後さらに増えていく見通しだ。 

www.bloomberg.co.jp

 

家計防衛術としての「投票」

日本では、増税や保険料、商品・サービスの値上げが話題となるたびに、様々なメディアで家計防衛術、節約術の話題が盛り上がる。だが、生活が苦しい人の多くはすでに相当程度の節約はしていて、この上さらに切り詰めるのはそう簡単ではない。また健康で文化的な最低限度の生活を維持するには今以上切り詰める余裕がない人もいるだろう。

そこで、誰でも簡単にできる家計防衛術としておすすめしたいのが「投票」だ。もう少し具体的に書くと、選挙で「大企業や富裕層や身内の優遇に使われていたお金を、庶民の生活を守るために使う政党」に投票し、政権を変えるのだ。このほうが、ほかの様々な家計防衛術や節約よりも、ずっと簡単で効果が高い。

こんな突拍子もないこと、にわかには信じられないという人も多いだろう。そこで、今回は自分がそう信じて疑わない理由を、なるべくわかりやすく説明してみたい。

まずは、なぜ政権を変えることが生活防衛術になるのか?について。これは「現在の政権は庶民の生活を守るためにはあまりお金を使っていない」ことを前提としている。実際にはどうだろうか。

 

現政権の方針

インターネットで複数のニュースサイトを見ている人にとっては周知の事実かもしれないが、自公政権は生活に困窮している人や弱い立場の人たちにはあまりお金を使っていない。

生活保護利用者にも、子どもの貧困にも、子どもの教育にも、原発事故の避難者にも、災害の被災者にも、現政府はあまりお金を使ってこなかった。

現在も、新型コロナの感染が疑われる人の検査にも、被害事業者や医療従事者への補償にも、あまりお金を使っておらず、困窮している人が数多く放置されているのが現状だ。 

日本は「弱者を見捨てる社会」になるのか?「死ね、と言っているのと同じです」。なくならない、生活保護バッシング | ハフポスト

【子供の貧困】安倍首相のメッセージに批判殺到 現場で支援する人たちはどう思った? | ハフポスト

日本の教育公的支出低調 16年、OECD調査 :日本経済新聞

1億円受け取る世帯があれば、わずか8万円の人も…福島原発「強制避難者」と「自主避難者」に差 (1/2) 〈AERA〉|AERA dot. (アエラドット)

「人道的な避難所設営と運営を」(視点・論点) | 視点・論点 | 解説アーカイブス | NHK 解説委員室

 

一方で、海外へのバラマキや、兵器の購入、辺野古新基地の建設、使用済み核燃料の再処理工場の建設、さらに「森友・加計問題」「英語の民間試験の導入」「桜を見る会」「持続化給付金」など身内や癒着事業者への利益供与、そして最近の「アベノマスク」「GoToトラベル」といった民意に逆行した政策には莫大な税金を費やしている。

【安倍晋三】増税した途端…安倍政権“海外バラマキ”累計「60兆円」突破|日刊ゲンダイDIGITAL

防衛予算案5.3兆円、過去最大 高い米製品の購入続く:朝日新聞デジタル

菅官房長官「辺野古は進める」 追加費用・工期延長は地上イージスと同じなのに:東京新聞 TOKYO Web

完成延期重ね、費用約3兆円 突き進む六ケ所再処理工場:朝日新聞デジタル

多すぎて慣れた? 安倍政権への“疑惑慣れ”「実際にメディアや国民に起きている」と専門家 (1/3) 〈AERA〉|AERA dot. (アエラドット)

 

他にも挙げればきりがないほど同様の例はあるが、これだけでも選挙で「大企業や富裕層や身内の優遇に使われていたお金を、庶民の生活を守るために使う政党」に投票し、政権を変えることの意義は明らかだろう。

しかし、政権を変えるなんてそう簡単にできるのだろうか?次回はその疑問に答えたい。