koshiromのメモ

ニュースを見て考えたことのメモ

「知られない」ことで保たれる権力と五輪、それを支える報道機関

前回、朝日新聞デジタルの「五輪中止なら…森会長「誰が弁償?費用は倍とか3倍に」」というニュースを批判する記事を書いた。

「費用は倍とか3倍」というのは根拠のない森氏の「たとえ話」に過ぎないのに、タイトルだけを見た人に「五輪を中止すると費用が倍とか3倍かかる」と早とちりさせる恐れがあるためだ。

 五輪中止なら…森会長「誰が弁償?費用は倍とか3倍に」 - 東京オリンピック:朝日新聞デジタル

 

「スポンサー/媒体」と「報道機関」は両立できるか?

では、なぜ朝日は森氏の根拠のない発言を無批判で掲載したのか?

ここで忘れてはならないのが、朝日も含め日本の大手新聞4社はすべて五輪のオフィシャルパートナーであること。そして同時に、五輪のスポンサーとなっている大手企業の多くは、新聞社や系列の地上波民放キー局のスポンサーでもあることだ。当然五輪が中止されたり、開催されても盛り上がらなかったりすると困る立場にある。

 

一方で、報道機関には市民の知る権利に応える使命があるはずだ。全国の新聞社・通信社などからなる日本新聞協会の新聞倫理綱領には、下記のような記述がある。

 国民の「知る権利」は民主主義社会をささえる普遍の原理である。この権利は、言論・表現の自由のもと、高い倫理意識を備え、あらゆる権力から独立したメディアが存在して初めて保障される。新聞はそれにもっともふさわしい担い手であり続けたい。

 おびただしい量の情報が飛びかう社会では、なにが真実か、どれを選ぶべきか、的確で迅速な判断が強く求められている。新聞の責務は、正確で公正な記事と責任ある論評によってこうした要望にこたえ、公共的、文化的使命を果たすことである。 

独立と寛容
 新聞は公正な言論のために独立を確保する。あらゆる勢力からの干渉を排するとともに、利用されないよう自戒しなければならない。他方、新聞は、自らと異なる意見であっても、正確・公正で責任ある言論には、すすんで紙面を提供する。

新聞倫理綱領|倫理綱領|日本新聞協会

 

しかし、五輪が中止になると都合が悪いスポンサー、そして媒体としての立場と、市民の知る権利に応える使命がある報道機関としての立場は両立できるのだろうか?

週刊現代の2019年12月の記事では、神戸大学教授の小笠原博毅氏の次のような言葉を紹介している。 

「私の調査では、新聞社が五輪のオフィシャルスポンサーになるのは、オリンピック史上初めてのことです。海外の研究者からも日本の言論環境を危ぶむ声があがっています」

さらに、この記事ではこのような記述もある。

'16年4月に『週刊新潮』が五輪組織委会長の森喜朗氏(82歳)が「オリンピックを批判する新聞とは契約しない」と東京新聞をスポンサーから排除したと報じた。裏を返せば、他の新聞社はJOCに白旗をあげている状態なのだ。

東京五輪で日本から「カネがなくなる」~200億円のスポンサー料…(週刊現代) | 現代ビジネス | 講談社(1/4)

 

元となった週刊新潮の2016年4月の記事を見ると、東京新聞を発行している中日新聞の小出社長の証言が掲載されている。

 森氏の恫喝発言について、中日新聞の小出社長に聞いてみると、

「はいはい。そのような問題は確かにありました。間接的にそういう話(森氏の発言)を聞きました」

 

つまり、現在スポンサーとなっているすべての新聞社および系列の地上波民放キー局は、報道機関としての使命を捨て、スポンサー/媒体としての自社の利益を優先しているということだろう。どうりで先の都知事選で、前回も前々回も行っていたテレビ討論会を開催しなかったわけだ。

【小池百合子】小池知事“雲隠れ”にTV局加担…他候補と報道時間つり合わず|日刊ゲンダイDIGITAL

都知事選4候補「every.」で初討論|日テレNEWS24

 

万が一、学歴詐称疑惑やほとんどの公約が未達であることなどを追及されてボロを出してしまうと、五輪中止を訴える候補者が勝って本当に中止となる可能性がある。スポンサー/媒体としては、それは絶対に避けたかったのだろう。

 

協同する小池知事とマスメディア

他にも、小池知事には市民に人となりが知られたくない理由があるようだ。小池知事をよく知っている都庁職員からの評価は歴代最低だったという記事がそれを物語っている。 news.yahoo.co.jp

もしマスメディアがこのような記事を含め、小池知事の人となりや仕事ぶりを大々的に報じ、多くの都民が都庁職員と同程度に小池知事のことを知っていたら、都知事選の結果は大きく変わっていたかもしれない。

もともと都合の悪い質問をする記者には発言の機会を与えない傾向があった小池知事は、2017年9月の都知事会見での「排除」発言で痛い目に遭って以降、さらにその傾向を強めているという。

「排除」発言を引き出した記者が見た「小池百合子の400日」(横田 一) | 現代ビジネス | 講談社(1/3)

小池都知事が圧勝の裏で露骨にメディア選別、批判的な記者は“排除” | Close Up | ダイヤモンド・オンライン

 

記者を選別して都合の悪い質問をさせず、市民に本当の姿を知られないことで知事の権力を保持している小池知事と、都合が悪い情報を伝えないことでそれに加担しながら、情報操作によって五輪の開催と自社の利益を死守しようとしているマスメディア。。

 「情報は民主主義の血液」と言うのならば、東京はすでに壊死寸前のようだ。血液を循環させなければならない。今の心臓はまだ治る見込みがあるだろうか。それとも新しい心臓を移植しなければならないだろうか。いずれにしても、抜本的な治療が必要だ。