koshiromのメモ

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日本人の政治への関心が低い二つの理由

日本人は政治への関心が低い。内閣府が実施した、各国の13 ~29 歳を対象とした意識調査では、政治に「関心がある」(「非常に関心がある」と「どちらかといえば関心がある」の合計)と答えた割合は43.5%だった。7か国比較で見ると「関心がある」と答えた割合がもっとも高いのはドイツ(70.6%)で、以下はアメリカ(64.9%)、イギリス(58.9%)、フランス(57.5%)、スウェーデン(57.1%)、韓国(53.9%)、日本(43.5%)と、日本は7か国でもっとも低い。

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また、「社会をよりよくするため、私は社会における問題の解決に関与したい」という考えに「そう思う」(「そう思う」と「どちらかといえばそう思う」の合計)と答えた割合がもっとも高いのもドイツ(75.5%)で、以下はアメリカ(72.6%)、韓国(68.4%)、イギリス(63.7%)、フランス(56.9%)、スウェーデン(56.9%)、日本(42.3%)という結果。

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さらに、「私の参加により、変えてほしい社会現象が少し変えられるかもしれない」という考えに「そう思う」(「そう思う」と「どちらかといえばそう思う」の合計)と答えた割合がもっとも高いのはアメリカ(63.1%)で、以下はイギリス(54.9%)、ドイツ(51.1%)、フランス(50.6%)、韓国(47.3%)、スウェーデン(46.9%)、日本(32.5%)という結果。

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我が国と諸外国の若者の意識に関する調査 (平成30年度) - 内閣府

 

政治への関心や意欲にかかわる質問のすべてで日本は7か国でもっとも低い結果だ。

 

諸外国と日本のシティズンシップ教育

日本の若者の政治への関心や意欲が低い大きな理由の一つに、「シティズンシップ教育」の遅れが挙げられる。

「シティズンシップ教育」とは何か?総務省が2011年12月に発表した「常時啓発事業のあり方等研究会」最終報告書では下記のようにまとめられている。

欧米においては、コミュニティ機能の低下、政治的無関心の増加、投票率の低下、若者の問題行動の増加等、我が国と同様の問題を背景に1990年代から、シティズンシップ教育が注目されるようになった。それは、社会の構成員としての市民が備えるべき市民性を育成するために行われる教育であり、集団への所属意識、権利の享受や責任・義務の履行、公的な事柄への関心や関与などを開発し、社会参加に必要な知識、技能、価値観を習得させる教育である。その中心をなすのは、市民と政治との関わりであり、本研究会は、それを「主権者教育」と呼ぶことにする。

https://www.soumu.go.jp/main_content/000141752.pdf

  

では、早くからシティズンシップ教育に注目してきた欧米、特に前述の調査で政治への関心や意欲が高かったドイツ、アメリカ、イギリスではどのように取り組んできたのか。3か国の取り組みを簡単にまとめてみた。

 

ドイツ

1976年、今日の政治教育の基本原則となる「ボイテルスバッハ合意」が発表された。

①「教員による見解の強制の禁止」:教員が期待される見解を生徒に強制し、生徒が自らの判断の獲得を妨げることがあってはならない。
②「論争のある問題は論争のあるものとして扱う」:学術や政治において議論のあることは、授業においても議論のあるものとして扱わなければならない。
③「個々の生徒の利害関心の重視」:生徒は、政治的状況と自らの利害関係を分析し、自らの利害関心に基づいて所与の政治的状況に影響を与える手段と方法を追求できるようにならなければならない。

2003年、政治教育の標準となる「学校における政治教育の国家的スタンダード」が策定された。同スタンダードでは、政治的判断力(政治を多面的かつ中長期的視点から理解する能力)と行動力(現状把握、自己の利害等を踏まえ倫理的かつ有効に意見表明する能力)等を生徒に獲得させることを課題としている。

また、ドイツ連邦議会選挙、州議会選挙、ヨーロッパ選挙に合わせて中高生を中心に模擬投票を実施。2019年のヨーロッパ議会選挙の際は2,760校が参加している。

 

アメリ

1994 年に制定された「アメリカ教育法」では、連邦が各州に対し教育の基準となるスタンダードの策定を促した。同法で掲げた2000年までに達成すべき「全国共通教育目標」全8項目のうち、次の2項目がシティズンシップ教育に関する内容となっている。

 ・全生徒が責任ある市民としての役割を果たすことを可能にするための学校教育の保証

・市民としての権利及び義務の担い手となるために必要な知識及び技能の習得

これを受けて、同年に主に民主主義を教える「公民科」のナショナルスタンダードが策定された。これは、政治に関する学習を中心とした「内容」のほかに、説明・分析や、政治に対する監視等の「技能」、個人の価値や人としての尊厳を尊ぶことなどが挙げられる「資質」のカテゴリーで編成されている。

また、大統領選挙の前には大規模な模擬選挙が全米規模で実施され、幼稚園児から高校生まで、多くの子供たちが参加するという。

 

イギリス

1997年、「シティズンシップ諮問委員会」を設置。同委員会は1998年にシティズンシップ教育を必修化することを提言した。これを受け、小学校では2000年から既存の教科の追加要素として、中学校では2002年から必修課目としてシティズンシップ教育が導入された。 この教科では、社会に対する責任感や参加意識、政治的な判断力を育てることを目的としており、時事問題、社会的論争についての知識だけでなく、意見の対立を解決する方法も学ぶ。選挙や投票に関しては、仕組みや事実関係の学習だけではなく、討論等を通じた探究や、模擬投票のような体験型の学習を重視している。

学校外では、英国議会の事務局が実施し、議員も参加する模擬議会のほか、事務局職員が各学校等で教員や生徒に講習やワークショップ等を行っている。また、「英国青少年議会」では、全国各地域から選出された青少年議員が、それぞれの地域の下院議員や地方議会の議員等とともに活動している。

 

国立国会図書館 主権者教育をめぐる状況

海外の主権者教育 明るい選挙推進協会

日本の主権者教育は、世界に40年以上遅れている!? | キャリア・教育 - Meiji.net(メイジネット)明治大学

 

日本の状況

一方日本では、2011 年に総務省の「常時啓発事業のあり方等研究会」が、欧州の「シティズンシップ教育」を基に「主権者教育」の展開を打ち出した。

2015年の公職選挙法改正による選挙権年齢の18歳への引き下げに向け、学校でも主権者教育が注目され、「明るい選挙推進協会」の「出前授業」を行う自治体数は増加した。

しかし、学校が行う主権者教育では「国民主権など民主主義の基本」「選挙区制など選挙の仕組み」「普通選挙実現の歴史」といった知識吸収型の学習にとどまり、「ディベートや話し合い」「模擬投票などの体験型学習」といった能動型の学習(アクティブ・ラーニング)は1割程度しか実施されていない状況だ。

幼稚園児や小学生のような小さな子どものうちから責任ある市民としてのふるまいを学び、能動型、体験型の学習を行う欧米の若者との関心・意欲の格差は、こうしたところから生まれているのだろう。

報告:主権者教育の理論と実践 日本学術会議

http://www.akaruisenkyo.or.jp/wp/wp-content/uploads/2010/07/18sai_bunseki.pdf

  

だが、日本人の政治への関心や意欲が低い理由はこれだけではない。もう一つの大きな理由として挙げられるのが、政治的な発言を攻撃する人が一定数いることだ。

特に有名人に対するネットでの誹謗中傷は顕著で、それによる精神的なダメージはもちろん、「一部のファンが離れるかもしれない」、「好感度が下がって契約しているスポンサーに迷惑をかけたり、降板させられるかもしれない」、「今後の仕事に支障が出るかもしれない」といった様々な懸念から、政治的な発言に後ろ向きな有名人が非常に多い。

しかし、「政治的な発言をする人への誹謗中傷」は、健全な民主主義を阻害する行為であり、本来許されるものではない。にもかかわらず、現在の日本ではTwitterのようなプラットフォームにおいても誹謗中傷やヘイト投稿が数多く放置されている。そうした状況が、有名人だけでなく多くの人を萎縮させているのは明らかだ。

日本では、前述の教育の問題で多くの人に政治的なリテラシーがない中、このような誹謗中傷が横行することで、政治の話を「避けるべきもの」とする空気が作り出されているのだろう。

なぜ多くの日本人は「芸能人の政治的発言」に眉をひそめるのか 「意見を言う」に否定的なニッポン | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)

日本で「有名人の政治的発言」が批判される理由―アメリカとの違いを解説【町山智浩×津田大介】(J-WAVE NEWS) - Yahoo!ニュース

 

だが、言うまでもなく国民には政治的な意見を表明する権利も、権力者を批判する権利もある。そればかりか、本来国民は主権者として為政者を監視し、おかしなことがあれば批判し、それを是正する責任がある。

多くの人がそうした国民の責任を果たせるよう、まずは政治の話を「避けるべきもの」とする空気を払拭し、誰もが気軽に政治の話をしやすい空気を作らなければならない。

「世界に変化を望むなら、自らがその変化になれ」というガンジーが言ったとか言わないとかいう名言があるが、日本人が場の空気に敏感であることを逆手に取り、「誰もが気軽に政治の話ができるようにしたい」と思う人みんなで、職場でも、駅や電車でも、美容院でも、友人・知人との集いの場でも、機会があるたびに、周囲の目を気にせず、いやむしろ周囲の目を気にしながら当たり前のようにさらっと政治の話をすることを続けていけば、「誰もが気軽に政治の話をしやすい空気」は作れるのではないだろうか。

そう思って、なるべくみんなに関係があるような話題の時事問題を選んで実践していたが、最近は対面でのコミュニケーションの機会が大幅に減ってしまった。機会がある方にはぜひやってみていただきたい。