koshiromのメモ

ニュースを見て考えたことのメモ

投票率を上げる方法

前の記事で日本の主権者教育が素晴らしい目標を持って行われていること、それなのに現状はその目標がまったく達成できていないことを書いた。

goover.hateblo.jp

 

今回は、主権者教育の欠如によって起きている問題の一つである「投票率の低さ」にフォーカスを当て、改善策を考えてみたい。 

 

選挙に行かない理由

まずは、投票率が低い具体的な要因を探るために、選挙に行かない人たちにその理由を聞いているいくつかの調査の結果を見てみる。

CCCマーケティングが2020年7月5日の東京都知事選挙前に、高校生から89才までの3,119人を対象にネットで行った「選挙」に関する調査では、「あなたが、「投票へ行かない」と答えた理由を、すべて教えてください」という問に対する答えのTOP5は下記の通りだった。

 

 10~20代が選挙へ行かない理由

1.自分が投票してもしなくても世の中は変わらないと思うから:35.2%
2.政治や選挙にあまり関心がないから:33.3%
3.どの政党や候補者に投票していいか分からないから:30.8%
4.投票場に行くのが面倒だから:29.6%
5.他のことで忙しく投票に行く時間がないと思うから:28.9%

 

30代以上が選挙へ行かない理由

1.自分が投票してもしなくても世の中は変わらないと思うから:42.9%
2.投票場に行くのが面倒だから:26.3%
3.政治や選挙にあまり関心がないから:25.0%
4.どの政党や候補者に投票していいか分からないから:22.9%
5.自分が関係する政策が少ないと思うから:13.8%
5.他のことで忙しく投票に行く時間がないと思うから:13.8%

中高生世代と政治・社会をつなぐソーシャルプロジェクト「学校総選挙」 「選挙」に関するアンケート調査を実施

 

明るい選挙推進協会が第25回参議院選挙後に18歳から24歳の2,000人を対象にネットで行った調査では、「投票に行かなかったのは、なぜですか。次の中からあなたの考えに近いものをいくつでも選んでください」という問に対する答えのTOP5は下記の通り。

 

1.面倒だったから:29.8%
2.選挙にあまり関心がなかったから:28.5%
3.どの政党や候補者に投票すべきかわからなかったから:18.9%
4.今住んでいる市区町村で、投票することができなかったから:15.9%
5.私一人が投票してもしなくても世の中は変わらないと思ったから:15.3%

第25回参議院議員通常選挙における若年層の意識調査

 

日本リサーチセンターで2019年7月の参議院選挙について18歳から69歳の1,180人を対象にネットで行った調査では、「投票に行かなかった理由をお知らせください」という問に対する答えのTOP5は下記の通りだ。

  

1.投票したいと思う候補者も政党もなかったから:22.3%
2.用事(仕事を除く)や急用ができたから:18.6%
3.選挙に関心がなかったから:17.0%
4.投票所に行くのが面倒だったから:14.6%
4.どの候補者・どの政党に入れればよいか、よくわからなかったから:14.6%

2019年7月参議院選挙に関するWEB調査

 

これらの調査結果から主な理由をまとめると、下記の5つに集約できる。

  1. 関心がない
  2. 面倒
  3. 投票しても世の中は変わらない
  4. 投票先が分からない
  5. 投票したい先がない

 

民間でできる改善策

これらに対する長期的な改善策として、主権者教育によって「国民主権を担う公民としての責任感」や「政治へのリテラシー」を身につけることが重要なのは言うまでもない。

だけど、短中期的な対策としては、民間でも改善に寄与できる改善策があるのではないだろうか。ここで上記1~4それぞれの理由に対する改善策を考えてみたい。

 

1.「関心がない」人の関心を喚起する

「関心がない」という人にも、「まったくない」人から「あまりない」人まで、いろいろな人がいる。そして、たとえ政治に「関心がない」人でも、政治に「関係がない」人はいない。なぜなら、国民は主権者であり納税者でもあるからだ。

誰もが消費税を払っているだろうし、所得がある人は所得税や住民税など、車に乗る人は自動車税自動車重量税など、持ち家の人は固定資産税、お酒を飲む人は酒税、たばこを吸う人はたばこ税、、というようにあまり意識していなかったとしても市民は様々な税金を払っている。そして日本の政治も行政も、それらの税金を使って行われている。

政治に「まったく関心がない」人の関心を喚起するのはなかなか難しいが、「あまり関心がない」人であれば、自分に関係がある(自覚していなかったとしても)トピックについて、気付きを促したり、正しい認識や理解の助けとなる情報を、テレビ番組や選挙公報のようなプッシュ型メディア(情報の送り手が能動的に情報を押し出し、受け手は受動的に情報を受け取るタイプのメディア)で伝えることで、一定の関心を喚起できる可能性は十分あるだろう。

 

2.「面倒」という人の障壁を取り除く

「面倒」という人は、大きく二つのタイプに分けられる。投票するために必要な情報収集が面倒な人と、投票所に行くことさえ面倒な人だ。

情報収集が面倒なケースでは、テレビ番組や選挙公報、大手ポータルサイトのディスプレイ広告のようなプッシュ型メディアで、ボートマッチのような候補者や政党との考え方の一致度を測ることができるコンテンツを提供して情報収集を支援することで、投票を後押しできる可能性がある。

最近は公約を平然と反故にする政治家もいるため、これまでの活動や言動なども確認しなければ、自分にとって正しい候補者や政党を選ぶのが難しくなっており、メディアが調査・検証した情報を提供することは、多くの人にとって助けとなるだろう。

投票所に行くことさえ面倒なケースでは、駅やショッピングセンター、大学などに投票所を設置する取り組みが有効だ。別の用事のついでに投票ができるようになるため、こうした取り組みを広げることで投票率の底上げが期待できる。

第25回参議院議員通常選挙にあたり、全国103のイオンの商業施設に「投票所」が設置されます | イオン株式会社

 

3.「投票しても世の中は変わらない」という人に社会を変える成功体験を

「自分たちが主体となって政治に影響を与えることができると感じられる意識や感覚」のことを「政治的有効性感覚(political efficacy)」という。「投票しても世の中は変わらない」という人の多くは、この感覚が低い人たちということができるだろう。

以前の記事で紹介した各国の若者を対象とした調査でも、「私の参加により、変えてほしい社会現象が少し変えられるかもしれない」と考える人の割合は日本がダントツで低く、選挙に行かない理由として「投票しても世の中は変わらない」という回答が多かった前述の調査結果と符合する。

では、「投票しても世の中は変わらない」という人たちの政治的有効性感覚を高めるにはどうすればよいのだろうか?

この感覚を高めるために重要なのは、「自主的に考え、行動したことで、何かを変えられた」という経験を積むことだと言われている。これはメディアで関心を喚起したり、情報や機会を提供したりするのと異なり、1回の選挙の期間内でできることではない。

それでも、できることはある。例えば「市民が社会の問題に対して行動して改善できた事例を集めて共有する」ことだ。

日本には投票やデモといった市民が政治に影響を与える行為を過小評価したり、無意味だと主張する人がいる。それに影響されて無意味だと思っている人も一定数いる。そのような人たちに「市民が社会の問題に対して行動して改善できた事例」を知ってもらうことで、「無意味」との主張を打ち消すことができるだろう。

さらには、そうした市民の行動を支援したり、自ら声を上げたりすることで、よい事例を増やすこともできるかもしれない。

18・19歳の新有権者はどんな政治意識を持っているか ~教育的な効果が高い模擬投票 - みらいぶプラス/河合塾

主権者教育の充実で、あるべき民主主義の実現を 健全な社会を次世代に手渡すために

日本人の政治的疎外意識 政治的有効性感覚のコーホート分析

 

4.「投票先が分からない」「投票したい先がない」人に有益な情報を伝える

「投票先が分からない」「投票したい先がない」という人は、「関心がない」という人と同様、自分に関係があるトピックについて、気付きを促したり、正しい認識や理解の後押しとなる情報を伝えたり、「投票するために必要な情報収集が面倒な人」と同様、ボートマッチのような候補者や政党との考え方の一致度を測ることができるコンテンツを提供して情報収集を支援することで、投票を後押しできる可能性があるだろう。

  

このように、テレビは日本の投票率の向上に大きな役割を果たすことができる可能性がある。

一方で、公共の電波を利用するテレビには極めて高い公共性が求められており、放送法では次のように定められている。

放送に携わる者の職責を明らかにすることによつて、放送が健全な民主主義の発達に資するようにすること。 

とはいえ、今の日本のメディアにこうした使命を果たすことを求めるのは求めすぎだろうか。。ぜひテレビで働いている人に「馬鹿にするな!」と反論してほしいところだ。

よりよい放送のために | 一般社団法人 日本民間放送連盟