koshiromのメモ

ニュースを見て考えたことのメモ

「間違ってました」で済ませてはいけない問題

「政府が2012年12月から続いた景気拡大期間が18年10月に終わり、景気後退局面に入ったと認定する方向で検討している」という記事を読んだ。

www.47news.jp

これまで統計データを改ざんしたり、算出方法を都合よく変更したりしてまでよく見せようとしていた現政府がこうした検討をすることになった背景に何があるのかはわからないが、相当大きな事情があるのだろう。

実質賃金伸び率 衆議院が野党側の方法で算出したらマイナスに | 注目の発言集 | NHK政治マガジン

アベノミクス指標に“仕掛け” GDP算出方法変更、不都合な試算拒む|【西日本新聞ニュース】


過去の言動との整合性は

しかし、2018年10月から景気が後退していたのだとしたら、政府・自民党の過去の様々な言動と整合性がとれなくなる。政府はこれまで「景気は穏やかに回復している」と主張し、さらに「景気の拡大が戦後最長となった可能性が高い」との宣言までしていた。2019年7月の参議院選挙でも自民党は景気の回復を実績として挙げており、それを信じて投票の参考にした有権者もいるだろう。

景気動向指数3か月連続で悪化も「緩やかに回復の認識変わらない」麻生財務相 | 注目の発言集 | NHK政治マガジン

「戦後最長景気」も10月増税も不変 茂木経済再生相:朝日新聞デジタル

 

さらに、2019年10月の消費税10%への増税は、当然景気が「穏やかに回復」している前提で実施されている。「実感なき景気回復」などという言葉が生み出され、テレビや新聞やネットなど様々なメディアでその理由が取り上げられた。それらを見て「実感はできないけど専門家がそう言うのなら…」と、消費増税に賛成はしないものの反対の声を上げなかった人はいるのではないか。

“景気回復” 実感は… - 特集ダイジェスト - ニュースウオッチ9 - NHK

景気回復が「実感できない」理由を考えてみた:日経ビジネス電子版


誤った情報に基づいて行った決定は見直しを

それが誤りだったとするのなら、景気が「穏やかに回復」していることを前提に行われた様々な決定は見直す必要がある。少なくとも消費増税の判断は誤りであったことを認めて謝罪し、8%へ戻すことを規定路線とした上で、現状の正しいデータに基づいて消費税に関する判断をやり直す必要がある。原因の究明を行い、責任者には責任を取ってもらい、実効性のある再発防止策を講じる必要もあるだろう。

誤った情報に基づいてでも実行し、既成事実ができてしまえば後で誤りに気付いた場合も見直しをしなくてよいなら、マスメディアさえ押さえてしまえばどんな方策でも権力者の思い通りに進められることになってしまう。「安全」「コストが安い」などと嘘をついて作った原発や、「アンダーコントロール」「アスリートが最高の状態でパフォーマンスを発揮できる理想的な気候」と嘘をついて招致した五輪と同じ構図だ。

 

やり放題を許さないために

しかし、そうした日本の無責任な政治は改めなければならない。マスメディアが追及しなかったとしても、なかったことにさせてはならない。日本人は「過ぎたことにとらわれない」ことを美徳と考える人が多いように思うが、それを政治の問題に当てはめてはならない。問題を解決しないまま有耶無耶にしてしまうのは、責任を取りたくない人たちや、現在の体制を維持したい人たちにとっては都合がよいが、民主主義国家の市民にとっては害悪だ。たとえしつこいと言われても改善・解決するまで言い続ける。それこそが市民にとっての美徳であり、日本国憲法第12条で定められた「不断の努力」でもあると思う。

 

日本国憲法第12条

「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない」

e-Gov法令検索

「知られない」ことで保たれる権力と五輪、それを支える報道機関

前回、朝日新聞デジタルの「五輪中止なら…森会長「誰が弁償?費用は倍とか3倍に」」というニュースを批判する記事を書いた。

「費用は倍とか3倍」というのは根拠のない森氏の「たとえ話」に過ぎないのに、タイトルだけを見た人に「五輪を中止すると費用が倍とか3倍かかる」と早とちりさせる恐れがあるためだ。

 五輪中止なら…森会長「誰が弁償?費用は倍とか3倍に」 - 東京オリンピック:朝日新聞デジタル

 

「スポンサー/媒体」と「報道機関」は両立できるか?

では、なぜ朝日は森氏の根拠のない発言を無批判で掲載したのか?

ここで忘れてはならないのが、朝日も含め日本の大手新聞4社はすべて五輪のオフィシャルパートナーであること。そして同時に、五輪のスポンサーとなっている大手企業の多くは、新聞社や系列の地上波民放キー局のスポンサーでもあることだ。当然五輪が中止されたり、開催されても盛り上がらなかったりすると困る立場にある。

 

一方で、報道機関には市民の知る権利に応える使命があるはずだ。全国の新聞社・通信社などからなる日本新聞協会の新聞倫理綱領には、下記のような記述がある。

 国民の「知る権利」は民主主義社会をささえる普遍の原理である。この権利は、言論・表現の自由のもと、高い倫理意識を備え、あらゆる権力から独立したメディアが存在して初めて保障される。新聞はそれにもっともふさわしい担い手であり続けたい。

 おびただしい量の情報が飛びかう社会では、なにが真実か、どれを選ぶべきか、的確で迅速な判断が強く求められている。新聞の責務は、正確で公正な記事と責任ある論評によってこうした要望にこたえ、公共的、文化的使命を果たすことである。 

独立と寛容
 新聞は公正な言論のために独立を確保する。あらゆる勢力からの干渉を排するとともに、利用されないよう自戒しなければならない。他方、新聞は、自らと異なる意見であっても、正確・公正で責任ある言論には、すすんで紙面を提供する。

新聞倫理綱領|倫理綱領|日本新聞協会

 

しかし、五輪が中止になると都合が悪いスポンサー、そして媒体としての立場と、市民の知る権利に応える使命がある報道機関としての立場は両立できるのだろうか?

週刊現代の2019年12月の記事では、神戸大学教授の小笠原博毅氏の次のような言葉を紹介している。 

「私の調査では、新聞社が五輪のオフィシャルスポンサーになるのは、オリンピック史上初めてのことです。海外の研究者からも日本の言論環境を危ぶむ声があがっています」

さらに、この記事ではこのような記述もある。

'16年4月に『週刊新潮』が五輪組織委会長の森喜朗氏(82歳)が「オリンピックを批判する新聞とは契約しない」と東京新聞をスポンサーから排除したと報じた。裏を返せば、他の新聞社はJOCに白旗をあげている状態なのだ。

東京五輪で日本から「カネがなくなる」~200億円のスポンサー料…(週刊現代) | 現代ビジネス | 講談社(1/4)

 

元となった週刊新潮の2016年4月の記事を見ると、東京新聞を発行している中日新聞の小出社長の証言が掲載されている。

 森氏の恫喝発言について、中日新聞の小出社長に聞いてみると、

「はいはい。そのような問題は確かにありました。間接的にそういう話(森氏の発言)を聞きました」

 

つまり、現在スポンサーとなっているすべての新聞社および系列の地上波民放キー局は、報道機関としての使命を捨て、スポンサー/媒体としての自社の利益を優先しているということだろう。どうりで先の都知事選で、前回も前々回も行っていたテレビ討論会を開催しなかったわけだ。

【小池百合子】小池知事“雲隠れ”にTV局加担…他候補と報道時間つり合わず|日刊ゲンダイDIGITAL

都知事選4候補「every.」で初討論|日テレNEWS24

 

万が一、学歴詐称疑惑やほとんどの公約が未達であることなどを追及されてボロを出してしまうと、五輪中止を訴える候補者が勝って本当に中止となる可能性がある。スポンサー/媒体としては、それは絶対に避けたかったのだろう。

 

協同する小池知事とマスメディア

他にも、小池知事には市民に人となりが知られたくない理由があるようだ。小池知事をよく知っている都庁職員からの評価は歴代最低だったという記事がそれを物語っている。 news.yahoo.co.jp

もしマスメディアがこのような記事を含め、小池知事の人となりや仕事ぶりを大々的に報じ、多くの都民が都庁職員と同程度に小池知事のことを知っていたら、都知事選の結果は大きく変わっていたかもしれない。

もともと都合の悪い質問をする記者には発言の機会を与えない傾向があった小池知事は、2017年9月の都知事会見での「排除」発言で痛い目に遭って以降、さらにその傾向を強めているという。

「排除」発言を引き出した記者が見た「小池百合子の400日」(横田 一) | 現代ビジネス | 講談社(1/3)

小池都知事が圧勝の裏で露骨にメディア選別、批判的な記者は“排除” | Close Up | ダイヤモンド・オンライン

 

記者を選別して都合の悪い質問をさせず、市民に本当の姿を知られないことで知事の権力を保持している小池知事と、都合が悪い情報を伝えないことでそれに加担しながら、情報操作によって五輪の開催と自社の利益を死守しようとしているマスメディア。。

 「情報は民主主義の血液」と言うのならば、東京はすでに壊死寸前のようだ。血液を循環させなければならない。今の心臓はまだ治る見込みがあるだろうか。それとも新しい心臓を移植しなければならないだろうか。いずれにしても、抜本的な治療が必要だ。 

タイトル詐欺?デマ?森氏「倍とか3倍」発言を伝える朝日の記事

「え!?中止したらそんなに費用がかかるものなの?」

朝日新聞デジタルの「五輪中止なら…森会長「誰が弁償?費用は倍とか3倍に」」というニュースのタイトルを見て、初めにそう思った。 

 五輪中止なら…森会長「誰が弁償?費用は倍とか3倍に」 - 東京オリンピック:朝日新聞デジタル

 

でも、中身を読んでみて合点がいった。同時に、マスメディアの腐敗を改めて見せつけられた気がして、怒りが込み上げてきた。

 

対照的な二つの記事

中身を読んで合点がいったのは、「倍とか3倍」というのは根拠のない森氏の「たとえ話」だったからだ。他のソースも調べてみたら、デイリースポーツにも類似の記事があった。 

 森喜朗会長「五輪中止なら今の倍お金が掛かる」 中止論けん制 新日程発表後に会見/スポーツ/デイリースポーツ online

  

同じ会見での発言に関する記事だけど、この二つには大きな違いがある。デイリーのタイトルからは「倍とか3倍」が中止論をけん制するための発言であることがわかるのに対し、朝日のタイトルからはそれがわからない。中身も同様だ。デイリーの記事では森氏の「倍とか3倍」発言の経緯が書かれており、どのような文脈での発言だったかわかるのに対し、朝日の記事からはそれがわからない。

 デイリーの記事によると、「倍とか3倍」は都知事選で五輪中止を訴えていた候補者を批判する森氏の発言のうち、「やめたら今の倍お金が掛かるということをまったく考えていない」という部分に対して真意を問われた際の強弁だったようだ。

「たとえ話を言ったのであって、常識的に考えて、一生懸命に投資してきたものが完成せずに終われば、それは無駄になるんじゃないですか?そしてさらに新しいものがいるとなれば、あるいはそれに対して補償しろとか弁償しろとなれば、誰がそれをするのか。それを考えれば、倍にも3倍にもなる」

 

「タイトル詐欺」よりも大きな影響

しかし、世の中にはこうした記事をタイトルだけで判断する人が少なからずいる。少し古いが、2016年6月のワシントンポストの記事では、ソーシャルメディアで共有されたリンクの59%はクリックされず、多くの人は中身を読まずにリツイートすることが示唆されたというコロンビア大学とフランス国立研究所の研究結果を紹介していた。

 

6 in 10 of you will share this link without reading it, a new, depressing study says

https://www.washingtonpost.com/news/the-intersect/wp/2016/06/16/six-in-10-of-you-will-share-this-link-without-reading-it-according-to-a-new-and-depressing-study/

 

「五輪中止なら…森会長「誰が弁償?費用は倍とか3倍に」」というニュースのタイトルだけを見て、「中止したら倍か3倍費用がかかる」と信じた人や「中止でそんなにかかるなら開催したほうがよい」と考えた人が一定数いた可能性は否定できないだろう。

記事を読ませるために大げさなタイトルを付けられた記事は「タイトル詐欺」と揶揄されることがあるが、これは通常タイトルでユーザーを引き付けて記事をクリックしてもらい、より多くのページビュー数を稼ぐ目的で行われるものだ。 

「タイトル詐欺」なぜ横行? 煽り記事に“釣られない”ための心構え (1/3) - ITmedia NEWS

 

しかし、件の朝日の記事はタイトルだけを見た人に、「五輪を中止すると費用が倍とか3倍かかる」と早とちりさせる恐れがある。

こうした記事のタイトルは、記事閲覧の有無、つまるところ記事の成果を左右する非常に重要な要素であるため、限られた文字数でいかにユーザーを引き付けることができるか、念入りに検討される。当然、今回の朝日の記事のタイトルも同様に検討され、タイトルだけを見た人に早とちりさせる恐れがあることはわかっているはずだ。にもかかわらず、記事の中身でも発言の経緯を書かず、中止した場合は本当に倍とか3倍の費用がかかるのか、検証していない。これでは、もし中止した場合の費用が倍とか3倍はかからなかった場合、結果的にデマを拡散したことになる。ここでいうデマとはただのウソではない。「政治的な目的で、意図的に流す虚偽の情報」だ。

デマとは - コトバンク


これから五輪の開催/中止の判断が必要になるというときに、判断に大きな影響を与えるデマが拡散されれば、正しい判断は難しくなる。世の中への影響の大きさを考えると、ページビュー数稼ぎの「タイトル詐欺」よりもはるかに悪質だ。

もし件の記事の最終的な責任者にこれを恥じる良心が残っているのなら、ぜひ今からでも、五輪を中止した場合の費用を、どの程度が保険で賄われ、どの程度を誰が負担しなければならなくなる見込みなのか調査し、公表してほしいと思う。