koshiromのメモ

ニュースを見て考えたことのメモ

タイトル詐欺?デマ?森氏「倍とか3倍」発言を伝える朝日の記事

「え!?中止したらそんなに費用がかかるものなの?」

朝日新聞デジタルの「五輪中止なら…森会長「誰が弁償?費用は倍とか3倍に」」というニュースのタイトルを見て、初めにそう思った。 

 五輪中止なら…森会長「誰が弁償?費用は倍とか3倍に」 - 東京オリンピック:朝日新聞デジタル

 

でも、中身を読んでみて合点がいった。同時に、マスメディアの腐敗を改めて見せつけられた気がして、怒りが込み上げてきた。

 

対照的な二つの記事

中身を読んで合点がいったのは、「倍とか3倍」というのは根拠のない森氏の「たとえ話」だったからだ。他のソースも調べてみたら、デイリースポーツにも類似の記事があった。 

 森喜朗会長「五輪中止なら今の倍お金が掛かる」 中止論けん制 新日程発表後に会見/スポーツ/デイリースポーツ online

  

同じ会見での発言に関する記事だけど、この二つには大きな違いがある。デイリーのタイトルからは「倍とか3倍」が中止論をけん制するための発言であることがわかるのに対し、朝日のタイトルからはそれがわからない。中身も同様だ。デイリーの記事では森氏の「倍とか3倍」発言の経緯が書かれており、どのような文脈での発言だったかわかるのに対し、朝日の記事からはそれがわからない。

 デイリーの記事によると、「倍とか3倍」は都知事選で五輪中止を訴えていた候補者を批判する森氏の発言のうち、「やめたら今の倍お金が掛かるということをまったく考えていない」という部分に対して真意を問われた際の強弁だったようだ。

「たとえ話を言ったのであって、常識的に考えて、一生懸命に投資してきたものが完成せずに終われば、それは無駄になるんじゃないですか?そしてさらに新しいものがいるとなれば、あるいはそれに対して補償しろとか弁償しろとなれば、誰がそれをするのか。それを考えれば、倍にも3倍にもなる」

 

「タイトル詐欺」よりも大きな影響

しかし、世の中にはこうした記事をタイトルだけで判断する人が少なからずいる。少し古いが、2016年6月のワシントンポストの記事では、ソーシャルメディアで共有されたリンクの59%はクリックされず、多くの人は中身を読まずにリツイートすることが示唆されたというコロンビア大学とフランス国立研究所の研究結果を紹介していた。

 

6 in 10 of you will share this link without reading it, a new, depressing study says

https://www.washingtonpost.com/news/the-intersect/wp/2016/06/16/six-in-10-of-you-will-share-this-link-without-reading-it-according-to-a-new-and-depressing-study/

 

「五輪中止なら…森会長「誰が弁償?費用は倍とか3倍に」」というニュースのタイトルだけを見て、「中止したら倍か3倍費用がかかる」と信じた人や「中止でそんなにかかるなら開催したほうがよい」と考えた人が一定数いた可能性は否定できないだろう。

記事を読ませるために大げさなタイトルを付けられた記事は「タイトル詐欺」と揶揄されることがあるが、これは通常タイトルでユーザーを引き付けて記事をクリックしてもらい、より多くのページビュー数を稼ぐ目的で行われるものだ。 

「タイトル詐欺」なぜ横行? 煽り記事に“釣られない”ための心構え (1/3) - ITmedia NEWS

 

しかし、件の朝日の記事はタイトルだけを見た人に、「五輪を中止すると費用が倍とか3倍かかる」と早とちりさせる恐れがある。

こうした記事のタイトルは、記事閲覧の有無、つまるところ記事の成果を左右する非常に重要な要素であるため、限られた文字数でいかにユーザーを引き付けることができるか、念入りに検討される。当然、今回の朝日の記事のタイトルも同様に検討され、タイトルだけを見た人に早とちりさせる恐れがあることはわかっているはずだ。にもかかわらず、記事の中身でも発言の経緯を書かず、中止した場合は本当に倍とか3倍の費用がかかるのか、検証していない。これでは、もし中止した場合の費用が倍とか3倍はかからなかった場合、結果的にデマを拡散したことになる。ここでいうデマとはただのウソではない。「政治的な目的で、意図的に流す虚偽の情報」だ。

デマとは - コトバンク


これから五輪の開催/中止の判断が必要になるというときに、判断に大きな影響を与えるデマが拡散されれば、正しい判断は難しくなる。世の中への影響の大きさを考えると、ページビュー数稼ぎの「タイトル詐欺」よりもはるかに悪質だ。

もし件の記事の最終的な責任者にこれを恥じる良心が残っているのなら、ぜひ今からでも、五輪を中止した場合の費用を、どの程度が保険で賄われ、どの程度を誰が負担しなければならなくなる見込みなのか調査し、公表してほしいと思う。